柔道の礼儀作法(立礼と座礼)

ここでは柔道の礼儀作法を簡単に説明します。これは私が諸先生方から教わったもので、普遍的なものではありません。礼儀作法は地域、各道場によって多少の違いがあるので参考程度にご覧下さい。


立礼

立ち姿勢の礼の仕方です。

試合はもちろん、打ち込みや乱取り稽古を始める前と終わりに行う礼儀作法です。

何にしてもそうですが、相手が存在するからこそ稽古や試合ができるのであって、一人では中々上達することはできません。したがってどんな場合でも相手を敬う気持ちが大切になります。試合や乱取りで相手を制したからといってガッツポーズをとるなど相手の気持ちを無視した心無い行為はやめましょう。ましてや、「やったー」などと声をあげるなど以ての外です。逆に負けたからっといってイジけたり、悔しがったりするのも無様なものです。一つの経験を得ることができたのですから相手に対し素直に負けを認め、賞賛し、感謝の気持ちを持つべきなのです。いずれにせよ、相手がいたからこそ勝敗があるわけですから、相手の存在に常に敬意を払いましょう。

立ち姿勢
立ち姿勢
立礼
立礼

【立ち姿勢と立礼の説明】

【立ち姿勢】

踵(かかと)をつけてつま先は約90度に広げます。

つま先を広げることで体がフラフラしにくくなり安定します。

武道全般に言えることですが上級者になればなるほど「平衡感覚」がとても重要になってきます。平衡感覚が崩れた状態が「隙」であって、相手の技を喰らう最大の要因となります。常日頃から体が左右対象であるかを意識し、背筋を伸ばし体をまっすぐにさせることを覚え、平衡感覚を養いましょう。

姿勢もさることながら、服装にも気をつけましょう。前襟や下がりを合わせ帯が緩んでいないか確かめます。帯の長さは左右均等ですか?結び目は真ん中に来てますか?

 

【立礼】

先生や審判の「礼!」の掛け声で約30度から45度ぐらい頭を下げ、大きな声で「お願いします。」と声をだします。ちょうど両手が膝頭に届くところまで持っていくとそのぐらいの角度になります。注意する点はあまり深々と頭を下げないことです。これは相手から目を離さないための行為です。いつ相手が襲いかかってきてもいいように相手の行動を把握しておきましょう。上目遣いは不格好なので、周辺視野で確認を取るようにします。

横から見たところ
横から見たところ
左足から一歩前へ進む
左足から一歩前へ進む

【一歩前へ進む】

立礼が終わり頭をあげたら、次は左足から右足と、前へ一歩進みます。

なぜ、先に左足を出すのかは諸説ありますが、当道場ではお侍さんが居合抜きをする際、左足を先に出し相手との間合いを測り、刀を抜くのと同時に右足を出すことに因んだ、という説を採用しています。下がるときは逆の動きをしますので右足から下がり踵をつけて礼をします。

自然体
自然体
座る時は左足から 立つときは右足から
座る時は左足から 立つときは右足から

【自然体の説明】

【自然体】

左足、右足と順番に出して一歩前へ出た状態です。ちょうど自分の肩幅と同一の幅で足を広げます。足の位置もややハの字にします。膝を気持ち曲げ余裕を持たせ、背筋を伸ばし肩の力を抜きます。この状態を「自然体」と呼びます。「自然体」はどの方向にも瞬時に攻撃できることから、すべての構えの中で最強とされています。自然体から少し腰を落とした状態で「自護体」という似た構えもありますので間違わないようにしてください。

試合や乱取り稽古の際はこの状態で先生や審判の「はじめ!」の掛け声を待ちます。


座礼

立ち姿勢から座る場合は必ず左足から座ります。立つときはその逆です。

座るときも立つ時も畳に手を付けません。つけた瞬間に「隙」ができます。

これは常に右上の写真の体制を作れるように癖付けるためです。

この作法も武士の作法が起源とされています。武士は左腰に刀を下げていました。座している状態から刀を抜いて相手を切るときは、左手で鞘を持ち、右手で刀を抜き切ります。その時に左足が前に出ている状態だと自分の足を切ってしまうのです。ですから必ず右足が前にくる状態を作るために、「左で座り右で立つ」という作法ができたとされています。

正座
正座
膝は拳二つ分開ける
膝は拳二つ分開ける

【正座の説明】

【正座】

正座は整列の時や寝技稽古のときにします。前襟をしっかり合わせ帯の結び目が真ん中に来ているか確認しましょう。膝は拳二つ分広げます。手は太ももの一番高くなっている部分に置くようにします。肩の力を抜き顎を引いて背筋を伸ばしましょう。口は閉じて鼻で深く呼吸をしますとどっしりと座ることができます。

親指を合わせて座る
親指を合わせて座る
座礼
座礼

【足のしびれを防ぐコツ】

何といってもこれは鍛錬に敵うものはありませんが、足の親指同士を合わせると踵(かかと)が開きお尻がすっぽりと収まる状態になります。自重が足全体に広がるので痺れにくいのですが、やはり慣れていないと五分もしないうちに痺れてしまいますね。長時間座って立つ際も、すっと立ち上がれると、とてもかっこよく見えますよ。

横から見たところ
横から見たところ
正座
正座

【座礼の説明】

【座礼】

座例の仕方は太ももに置いてある手を滑らすように持ってきて静かに畳に手を付き頭を下げます。この時肘は「こ」の字を縦に書いた程度に曲げますと相手を周辺視野で確認が取れるぐらいになります。頭を下げるのと同時に「お願いします。」または「ありがとうございました。」と大きな声で挨拶をします。

そして、また静かに姿勢を元の位置に戻します。

注意点として、音は立てない方が上品に見えます。なおかつ「音を立てる=モノを粗末に扱う」ことに通じるのでで音を立てないように畳に手をつけましょう。

畳は日本人の魂であり、柔道家にとっては必要不可欠なものです。普段から痛い思いをされているのですから、座礼の時ぐらい優しくしてあげましょう。

 

【正座からの移動】

正座をしている際の移動は、体半分から1つ半ぐらいまでは拳を畳に当て「にじって」移動します。体二つから三つ程移動する場合は蹲踞で移動します。それ以上の場合は立って移動しましょう。

よく寝技の際、背中合わせをするとき膝でテクテク移動する子や四つん這いでハイハイして移動する大人がいますが、結構見苦しいものです。